ブール代数入門(3)-ストーンの表現定理
本稿は以下の記事の続きとして, Boole代数における重要な結果であるStoneの表現定理を紹介する.
3. Stoneの表現定理
準同型写像と準同型定理
Def.3.1(準同型写像)
をBoole代数とする.このとき,
,
,
を満たす写像をからへの準同型写像という.特に, が全単射な準同型写像であるとき,これをからへの同型写像という. からへの同型写像が存在するとき, とは同型であるといい, とかく.
代数学で群や環,或いはベクトル空間などを学んでいれば,準同型写像の意味は容易に理解できよう.準同型写像とは, Boole代数における加法,乗法,否定を保存する関数である.これは構造を保つという言い方もできる.また,同型とは, Boole代数の意味で同じ空間であることをいう.
Def.3.2(準同型写像の核)
をBoole代数, を準同型写像とする.このとき, をの核という.
Def.3.3(対称差)
をBoole代数とする.このとき, を対称差という.
対称差は,スイッチング代数において通常,排他的論理和(Exclusive OR/XOR)と呼ばれる演算である.集合代数においては,主に測度論などで用いられる.
さて,準同型写像の基本的な性質を確認しよう.
Lem.3.4
をBoole代数, を準同型写像とする.このとき,次が成り立つ.
.
.
.
Proof
(1) である.更に, である.
(2) とする.このとき, である. なので, である.
(3) とする. なので, である.逆に, とすると, である.よって, である.これより, かつなので, である.
次に,核の性質を見てみよう.
Lem.3.5
をBoole代数, を準同型写像とする.
Proof
(1) まず,イデアルの公理(1)を確かめよう. Lem.3.4(1)より, である.次に,イデアルの公理(2)を確かめよう. とすると, であるから, である.最後に,イデアルの公理(3)を確かめよう. をとると, なので, である.従って, はのイデアルである.
(2) (1)と双対的に証明できる.
(3) とする. とすると, またはである. のとき, である. のとき, なので, である.従って, は素イデアルである.逆に, は素イデアルであるとする. Lem.3.4(1)より, である. とすると, なるがとれる. のとき, である. のとき, である.従って, である.超フィルターに関しても同様.
素イデアルがあれば,スイッチング代数への自然な準同型写像が構成できる.
Thm.3.6
をBoole代数, を素イデアルとする.このとき, なる全射準同型写像が存在する.
Proof
写像を, で定めればよい.このとき, は準同型写像で, なので, Lem.3.5(3)よりは全射準同型である.
さて,ここまで準同型写像について説明した.ここから少し脇道に逸れて,準同型写像の基本定理ともいえる準同型定理を示そう.
Lem.3.7
をBoole代数, を準同型写像, とする.このとき, と定めると, は上の同値関係である.
Proof
Lem.3.4(3)を用いれば容易である.
Lem.3.8
をBoole代数, を準同型写像, とする.このとき, ならばである.
Proof
なので, である.他も同様に示せる.
Def.3.9
をBoole代数, を準同型写像, とする.このとき, をで割った商集合をで定める. の同値類をとかく. 上の加法をで,乗法をで,否定をで定めるとき, はBoole代数である.これをのによる商Boole代数という. をで定めると, は準同型写像である.これを自然な準同型写像という.
以上の準備の下,準同型定理が証明できる.
Thm.3.10(準同型定理)
をBoole代数, を準同型写像, とする.このとき,単射準同型が一意に存在して, を満たす.特に, が全射なら, は同型写像で, である.
Proof
写像を, で定める.これがwell-definedであることはの性質からわかる.そしてこの定め方からも直ちに従う.このが単射準同型であることを示そう.まず, とすると, なので, である.従って, は単射である.また, である.同様に, であるから, は準同型である.さらに, をもうひとつの単射準同型とすると, であるから,このようなは一意である.若しが全射なら, をとるとなるがとれるので, となるから, は全射,特に同型写像である.
次の系は,スイッチング代数に同型なBoole代数の条件を示す.
Cor.3.11
をBoole代数, を素イデアルとする.このとき, なる全射準同型写像が存在して, である.
Proof
Thm.3.6と準同型定理3.10より, である.
Stoneの表現定理
さて,話題をStoneの表現定理に戻そう.以後,学部2年次程度の位相空間論の知識を前提に議論を進めるが,あまり馴染みのない位相空間論の用語の確認をしておこう.
Def.3.12(0次元空間)
を空でない空間とする. をの開閉集合全体の族とする(Ex.1.14参照).このとき, がの開基であるとき, を次元であるという.
Lem.3.13(連結成分とquasi-componentの関係)
を位相空間, とする.このとき, の連結成分を, のquasi-componentをとするとき, である.特に, がコンパクトHausdorff空間のとき, を満たす.
Proof
を位相空間, とする.
(1) をとり, をを含むの開閉集合とする.このとき, とはの閉集合の分割で, だから, は連結なのででなくてはならない.よって, である.故に, であるから, である.
をコンパクトHausdorff空間とする.
(2) が連結であることを示せばよい. は連結でないと仮定すると, はの空でない閉集合の分割がとれる.いま, としてよい.このとき, はの閉集合なので, もの閉集合である. は正規なので, なるの開集合がとれる.更に, はコンパクトで, であり, はの閉集合からなる族であることに注意すると, なるのを含む開閉集合がとれる.よって, である. とおく.今, なので, を満たす.従って, はの開閉集合である. より, であり, である.従って, となってしまい,矛盾する.以上より, は連結である.故に, である.
Def.3.14(Stone空間)
次元コンパクトHausdorff空間をStone空間という.
Stone空間の基本的な性質として,次が成り立つ.
Thm.3.15(Stone空間の特徴付け)
コンパクトHausdorff空間がStone空間であることと,完全不連結であることは同値である.
Proof
をコンパクトHausdorff空間とする.
(1) がStone空間であるとする. をとる. をの連結成分とするとき, を示せばよい. をとり, とする.このとき, なる連結集合がとれる. は次元で, はの閉集合なので, なるの開閉集合がとれる.よって, とはの空でない開集合からなる分割であるが,これはが連結であることに矛盾する.従って, である.
(2) が完全不連結であるとする. となるの開集合をとる. とおく.このとき, かつはの閉集合なので, なるの開近傍がとれる.よって, はコンパクトなので, かつはコンパクトである.今, Lem.3.13よりだから, Lem.3.13の証明と同様にして, なるの開閉集合がとれる. とおく. はの開閉集合で, を満たすので, は次元である.
Ex.3.16
Thm.3.15より, Cantor集合はStone空間である.
さて,目標の定理は次のように述べられる.
Thm.3.17(Stoneの表現定理)
任意のBoole代数に対し,あるStone空間が存在して, を満たす.
Stoneの表現定理は「Boole代数はあるStone空間の集合代数に埋め込める」と主張できる.特に,「Boole代数はある集合代数に埋め込める」ともいえる.その意味で, Boole代数は集合代数と同様の操作が可能になる.集合代数は数学を取り扱う人にとっては良く知る世界であり, Stoneの表現定理は一般の(よくわからない/複雑なものも含めて)Boole代数と集合代数との間に架け橋を作る. Boole代数を調べるのであれば,集合代数を調べればよいことになる.線形代数には表現行列という概念があるが,これに似たような話である.
Stoneの表現行列の証明はこれまでの定理の証明に比べるとずっと長く,煩雑なものであるが,素直に証明できるので,ここまでの内容と位相空間論をしっかりと把握している人であれば理解するのは決して困難ではないはずだ.
Proof
をの超フィルター全体の族とし,写像を
で定める.
は全単射であること
に対して, とすると,反対称律からとしてよい.このとき, である.よって, とおき, で生成されるフィルターを考えると,超フィルター定理より, を含む超フィルターがとれる.よって, だがなので, かつである.故に, である.従って, は全単射である.
がBoole代数をなし, は準同型写像であること
いま, は自然に上の集合代数とみなせる.そこで, がBoole代数をなし, が準同型写像であることを示す.まず,定義からとがわかる. とをとる. は超フィルターであることに注意すると, Lem.2.7(1)よりなので, である. Lem.2.7(2)より, である.最後に,フィルターの定義からである.故に, はBoole代数で, は準同型写像である.特に, は同型写像である.
に位相を入れよう.その為に, が開基の公理を満たすことを示せばよい.まず, に対し, なので, である.よって, はを被覆する.次に, をとり, とすると, は準同型写像なので, である.よって, は開基の公理を満たす. から生成される位相をとおく.
位相空間が求めるStone空間であることを示せばよい.以後,位相空間を単にと表す.
はHausdorff空間であること
をとり, とする. がとれるとしてよい.このとき, なので, である.よって, だから, はの開集合によって分離される.故に, はHausdorffである.
は次元空間である,特にはの開閉集合であること
なので, はの開閉集合である.よって, の元は開閉集合である. はの開基であった.従って, は次元空間である.
はコンパクトであること
の閉集合族が有限交叉性をもつとする. の有限個の元に対し,有限交叉性からである.よって, である.よって,超フィルター定理より, から生成されるフィルターを含む超フィルターがとれる.よって, だから, である.従って, はコンパクトである.
以上により, はStone空間であることが示せた. かつはの開閉集合からなるので,次を示せばよい.
であること
をの開閉集合とする. はコンパクトではの閉集合なので, はコンパクトである. はの開集合なので, がの開基より, なるがとれる.よって, はコンパクトだから, なるがとれる.以上より, である.故に, である.